King Crimson 『Starless』 1

『Starless And Bible Black』発表前後のライブを収録した27枚組BOX。もはや正気の沙汰ではない。

Starless

Starless

1972年秋に5人体制で始動した第3期King Crimsonだったが、『Larks' Tongues In Aspic』発表直後の1973年初頭にジェイミー・ミューアが脱退してしまった。
4人体制で立て直したを計った後の、1973年秋と1974年春の欧州ツアーをこの『Starless』に収録している。

聴いたものは普段は大概良く覚えている方なのだが、今回圧倒的な物量を前にしてこれはさすがに記憶だけでは心許ないと思い5回に分けて記録しておく。
なお、メモからひたすら転記しているため、日を置いて適宜追記修正している。

まずは1973年秋の欧州ツアーを納めたDisc 1〜6まで。

Disc 1, 2

1973-10-23 Apollo, Glasgow, Scotland

  • DGM Liveで発表済み。全体にノイズを低減したリマスタリングがされている。既出では"Improv: IV"とナンバリングされていた12.は"Improv: Loose Scrummy"に名称変更。
  • 5."We'll Let You Know"はそのまま『Starless And Bible Black』に収録された。
  • ライブ盤の計画があったためか、演奏は非常に安定している。このボックスセットにおける1973年秋の音源を通して聴いている限りでは、おそらく『Starless And Bible Black』の当初の構想はフルステージかそれに近い短縮版のLP2枚組のライブ盤だったのではないかという気がしている。
  • 7.”Fracture"は静寂部から移行するフリップのカッティングからの展開は重い演奏が特徴でこれは1973年の欧州ツアー全般でこの形式なのだが、翌年からはテンポを上げた演奏に変わっていく。また、中間部にはジャズロック的なパターンがあり、現在公式に聴ける音源ではこのライブまでしか登場しないセクションである。
  • 10."Improv: Tight Scrummy"はこの時期試行していたリズムボックスを交えたインプロ。ループ上のインプロという実験はこの後Fripp & Enoで継続されたがバンドとして挑戦することはなかった。ビル・ブルーフォードをより自由にすることが目的だったのではないかと思うが、当時のハードウェアではバンドの一楽音として共存するには音色の面で厳しかったと思う。結果としてブルーフォードはリズムボックス的なパターンを自身のドラミングに取り込んでいくことになる。

Disc 3, 4

1973-11-15 Volkshaus, Zurich, Switzerland

  • KCCC(CLUB41)で発表済み。全体にノイズを低減したリマスタリングがされている。
  • 10/23のグラスゴーと同様にライブ音源化を想定していたと思われるが、結果としてここからは11."Improv: Mincer"にジョン・ウェットンのボーカルを加えたものが『Starless And Bible Black』に収録された。正確には、"Improv: The Law Of Maximum Distress"の中間部分を切り取ってオーバーダブを加えたという表現が正しいか。残念ながら『Starless And Bible Black』制作時のこの処置のために"Improv: Mincer"のオリジナルは今も失われたままである。
  • 最初にこの記事を書いていたときには気付かなかったのだが、ここに収録されている"Improv: Mincer"はなんと『Starless And Bible Black』収録版に差し替えられている。KCCC(CLUB41)ではBootleg音源とはいえオリジナルの演奏を聴くことができたのだが。極めて不可解な変更である。
  • そのMincerを含む"Improv: The Law Of Maximum Distress"の出来が素晴らしい。1972年のカオスなインプロとも1974年の破れたインプロとも異なり、1973年秋のインプロは事前に固められた部分が大きく、何も知らない人が聴いたら作曲された楽曲と区別がつかないのではないか。
  • 本来1つのインプロなので、今回の『Starless』版の流れで聴いていると、明らかにボーカルだけオーバーダブされた"Improv: Mincer"は違和感がある。
  • ラストの18."21st Century Schizoid Man"のフリップのギターソロも素晴らしく、1ステージ丸ごとの長尺の音源だが満足度は非常に高い。

Disc 5, 6

1973-11-23 Concertgebouw, Amsterdam, Netherlands

  • 1997年に『The Nightwatch』として発表済み。今回はスティーヴ・ウィルソンが新たにMixし直したもの。
  • 『The Nightwatch』の時点でも本来の演奏全体を収録したマスターテープが不明であることから数々の修復がなされていたが、スティーヴ・ウィルソンに渡された音源はこれらの作業を経たものをベースとしていると思われる。
  • 従来の『The Nightwatch』と大きく印象が変わるものではないが強弱のアクセント付けに重みを置いたMixで、ライブ音源という限定されたソースにも係わらずさすがスティーヴ・ウィルソンと唸ってしまう。
  • 『The Nightwatch』との細かい違いとしては3."Book of Saturday"終了後のMCを切り出し4."RF Announcement"としてTrack化されている。
  • 6."Night Watch"のイントロ、5."Fracture"、7."Improv: Starless And Bible Black"、8."Improv: Trio"が『Starless And Bible Black』に収録された。
  • 本来BBCのラジオ番組で放送予定だったことからここでも演奏はかなり手堅い。『Starless And Bible Black』の大半の音源がこのライブだったことからわかるようにまさしくこのラインナップによる1973年時点の到達点であろう。

関連

King Crimson on October 23, 1973 in Glasgow

  • チューリッヒのKCCC版。タワレコでも見たことがあるけど凄く高かった記憶がある。前述の通りDisc 3, 4は不可解な編集が行われているため、オリジナルの全体像はこちらを参照。

  • アムステルダムの『The Nightwatch』。PJ Crookが提供したジャケットが味わい深い。

Night Watch

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