King Crimson 『Starless』 2

King Crimsonの『Starless』ボックスセットの紹介第2弾。

Starless

Starless

今回は1974年春の欧州ツアーを収めたDisc 7〜18まで。
キリのいいところまでを紹介しようと思っていたのだが、Disc数が多いので長くなってしまった...

Disc 7

1974-03-19 Palazzo dello Sport, Udine, Italy

  • DGM Liveにて発表済み。このDisc以降、1974年春のライブ音源はPAで残していた1/4 Reel(通称Blue Tape)からの収録。
  • この日のライブではテープの第1巻が失われている前半はなし、第2巻に残されていた後半3曲のみを収録している。このため収録時間わずか25分である。
  • DGM Liveでも既発だった前半部分はBootlegから修復したもので、このボックスセットではAudio Curiosの方に収録されている。ライブの全貌はそちらとあわせて確認することができる。
  • たったの3曲とは言えライブ終盤の3曲なので始まった瞬間から最高潮。"The Talking Drum"を導入にしていない14."LTIA2"は疾走感を打ち出しており、これが1974年型の演奏の基本形となっていく。

Disc 8

1974-03-20 Palazzo dello Sport, Brescia, Italy

  • DGM Liveにて発表済み。
  • 2."LTIA1"のオープニングのインプロを切り出して1."Improv: I"としてTrack化。
  • その"LTIA1"はここでの演奏を最後にセットリストから外れることになる。なんとこの曲の再演は2014年の第8期クリムゾンまで待たなければならない。
  • 4."Easy Money"の出来が素晴らしく。
  • いい気分で聴いていると9."Exiles"の途中でバッサリ終わるところも既出通りだが、わかっていても悲しいものがある。
  • このボックスセット、1974年欧州ツアーについては全てPA上のBlue Tapeに記録された音源を出典としてるのだが、Blue Tapeは60分までと制約がある。これ以後4/2のゲッティンゲン公演まで収録時間は全て60分が上限である。覚悟しよう。

Disc 9

1974-03-22 ORTF T.V., Paris, France

  • オーディオ音源としては初出だが、以前からYoutubeにも上がっていたとおり映像は公開済みのTV放送のスタジオライブ。
  • TV放送でも相変わらずインプロをやっているが、これは次曲3."Night Watch"への導入。1972年秋の第3期クリムゾン結成当初はドイツのTV番組で30分にもおよぶインプロをやっていたことを考えると随分まともなロックバンドになったと言えるかもしれない。
  • 5曲30分の演奏だが、カッチリとしたステディな演奏でまさかここから半年後に突然解散してしまうとは夢にも思わないだろう。

Disc 10

1974-03-24 Palais Paul Videl, Avignon, France

  • 初出音源。
  • どうして今まで公開しなかったんだというぐらい冒頭から良い演奏が続くのだがそのうちずっこける場面が頻出する。
  • 4."Fracture"の後半部ではチューニングの合わないデヴィッド・クロス、外しまくるロバート・フリップの二人によるジャイアン・リサイタル空間が出現する。
  • これに限らずデヴィッド・クロスはライブ終盤に向けてどんどんグダグダになっていくのがわかるが、この3月のツアーからジョン・ウェットンが機材を変更し大音量化が始まったことと無関係ではないと思う。
  • この時期、クロスに限らず演奏からこぼれるメンバーがいれば必ず誰かがフォローに入るのだがこれがやがて6月の北米ツアーでは、演奏からこぼれると無視されるという非情さがバンドの基本になっていく。
  • 出来の悪さに自覚があったのかどうか、驚くことにこの日はインプロをやっていない。非常に珍しいライブ。

Disc 11

1974-03-25 Palais Des Sports, Besançon, France

  • 初出音源。6."Improv:I"の一部のみ『Cirkus』に収録されていた。
  • 3."Fracture"でやや持ち直すもののこの日の演奏は全体的にやや平凡な出来。
  • ライブの早い段階で"Fracture"を演奏すると疲れてしまう気がするのだが、実際これ以降のツアーでは再び終盤に演奏されるようになった。
  • 7."Starless"は静かな導入でクロスのヴァイオリンが良く映えているのだが、これはどうも冒頭ではブルーフォードが少々気が抜けていた風で音数が減っていただけではないという気もしている。ウェットンの歌が終わったあたりからはドコドコと叩き始め徐々にいつものペースに戻っている。

Disc 12

1974-03-27 Stadttheater, Augsburg, Germany

  • DGM Liveにて発表済み。
  • 2."Doctor Diamond"のオープニングを切り出して1."Improv: I"としてTrack化。
  • なお会場は長らく不明だったものをStadttheaterに特定できたらしく思われるが、単に『劇場』と言っているだけなのかもしれない。
  • フランスでの不振を吹き飛ばす目の覚めるような圧巻の演奏。第3期クリムゾンはよほどドイツと相性が良かったのかここからDisc 18のゲッティンゲンまで多少のアップダウンはあるものの名演の連続である。
  • 気持ちよく聴いていると最後の11."LTIA2"でバッサリ終わりまたしてもBlue Tapeの制限時間を思い知らされることになる。

Disc 13

1974-03-28 Halle Der Fachoschule, Dieburg, Germany

  • 初出音源。
  • 冒頭の1."Doctor Diamond"はビシビシ決まっておりこの曲のベストテイクかと思う。
  • この日はインプロのキレも良く特に6."Improv: I"はシャープかつ緊張感のある演奏。
  • 10."Starless"が歌パートで終わってしまうためウェットンのファンは我慢できるかもしれないが、そろそろ収録時間の制限にストレスを感じてくる頃合いである。

Disc 14

1974-03-29 Stadthalle, Heidelberg, Germany

  • KCCC(CLUB29)、DGM Liveにて発表済み。1."Walk On"と4."RF Annoucement"の切り出しが行われている。
  • 5."Improv: II"は次曲6."Exiles"の前奏。
  • この日のインプロはI、IIともに次曲の前奏という役割で単独の曲ではないが、いずれも次曲が立ち上がってくるような効果を目指した雰囲気重視の演奏で興味深い。
  • なおこの日から4日間は"Easy Money"の終了後シームレスに"Fracture"につなげるパターンでセットリストが組まれているのだが、毎回判を押したように"Fracture"の冒頭だけで録音が終了してしまう。いい雰囲気で盛り上がる直前に必ず絶妙な幕切れで終わってしまうという最もフラストレーションの溜まるパターンである。

Disc 15

1974-03-30 Elzer Hof, Mainz, Germany

  • KCCC(CLUB15)、DGMで発表済み。2."Improv: The Savage"の冒頭を切り出して1."Walk On: No Pussyfooting"としてTrack化、従来11."Easy Money"に含まれていた"Fracture"のイントロも切り出して12曲目としてTrack化されている(ただし56秒...)。
  • 前日同様に絶好調のライブ。ここまでほぼ同じセットリストで演奏してきたことで頂点が見えてきている。
  • 9."Improv: Trio"は10/23のアムステルダムでの演奏をなぞるもので厳密にはインプロではない。ちなみに『Starless And Bible Black』の発売がこの前日だったので軽いサービスだったのかもしれない。ブルーフォードも音を加えておりどこがトリオやねん、とは思うがそれも含めてタイトル付けはロバート・フリップによるギャグと見ても構わないと思う。
  • 全体的に余裕を感じるライブであるのは確か。

Disc 16

1974-03-31 Jahnhalle, Pforzheim, Germany

  • DGM Liveで発表済み。
  • ジョン・ウェットンのベースがブリブリ唸っていて格好良いが同じステージのメンバーにはたまったものではない、という傾向が一段と強くなるライブ。
  • そのせいかどうかデヴィッド・クロスは演奏からこぼれがちになり、こちらも当時のメンバーのように舌打ちしたくなる。
  • この日のウェットンはベースだけではなく喉の調子もかなり良く、世間一般で認識されている「ジョン・ウェットンの格好良い節回し」を連発している。
  • 8."Starless"ではウェットンに負けじと奮闘するロバート・フリップ、それを聴いてより一層ハッスルするビル・ブルーフォードという構図で大いに盛り上がる。
  • 続く9."Easy Money"もジョン・ウェットン劇場と言った趣でやりたい放題、対抗するフリップ、仕掛けまくるブルーフォードと構図も同じ。途中で切れてしまう次曲10."Fracture"までこの構図は引き続いており、もはやクロスの存在を忘れてしまう。

Disc 17

1974-04-01 Stadthalle, Kassel, Germany

  • KCCC(CLUB36)、DGM Liveで発表済み。
  • 前日のウェットン劇場を踏まえた結果か、フリップのギターもクロスのメロトロンも音量大きめ。やがてメンバー全員が疲弊していった不毛な音量合戦が始まったことがわかる。
  • 当時ステージ上ではモニタリングが困難だったと言うが、この音量でもキメを外していないところからすると結局のところ問題はウェットンのファズ・ベース次第だったのか?という気がする。
  • この日のセットリスト、実はインプロ以外は前日のプフォルツハイムと全く同じなので聞き比べてみると結構面白い。
  • 4."Exiles"の前奏になる"Improv: II"はこのパターンのベスト。インプロの難点は決着を付けづらい点にあるのだが、荒々しいインプロを静かな曲への導入として解決する、というメンバー一同失念していたと思われる解決パターンがここで登場する。
  • 8."Starless"では終章に突入する直前のフリップとウェットンによる発信音のような刻みがシャッフルしていないという珍しいパターンだが、これは両者が入りを間違えてそのままこうなったものと思われる。
  • 10."Easy Money"でもフリップのキレっぷりが素晴らしい。この日の演奏は全体にやや歪みが強いトーンでセッティングしており刻みは若干ノイジーながらロングトーンが決まりまくっているのだが、この曲でもジャジーなトーンのソロで歪み成分が強く慎重にコントロールしながら弾いているのがわかり、これにビル・ブルーフォードを始めとした他のメンバーもぴったり合わせており格好良いことこの上ない。

Disc 18

1974-04-02 Stadthalle, Göttingen, Germany

  • 初出音源。
  • 欧州ツアーはこの日で終わりである。
  • 2."Doctor Diamond"は久しぶりにインプロなしでスタート。1."The Great Deceiver"からの流れを考えるとこちらの方がスピード感があるという判断か。デヴィッド・クロスの演奏も安定している。
  • この日はセットリストが若干変わったためようやく4."Fracture"をフルで聴くことができる。ハイテンションな演奏だが終章でフリップのギターの音量が極端に落ちてしまうのが残念(PA側のミスかフリップのボリューム・ペダル操作ミス)。
  • 7."Starless"も上手く決まっておりいよいよ完成形に近づいている。

関連

  • KCCCでのリンク。

  • DGM Liveからダウンロードできるもの。

King Crimson on March 19, 1974 in Udine
King Crimson on March 20, 1974 in Brescia
King Crimson on March 27, 1974 in Augsburg
King Crimson on March 29, 1974 in Heidelberg
King Crimson on March 30, 1974 in Mainz
King Crimson on March 31, 1974 in Pforzheim
King Crimson on April 01, 1974 in Kassel