2021年 今年の音楽 / 新譜:総合:海外

Taylor Swift 『Red: Taylor's Version』

本当はReissue枠のような気もするが、カントリー界のアイドルから一歩抜け出そうとした時期の再録。力強くしなやかで、ああこの人は本当に本物のアーティストになったのだなあと感服。


London Grammar 『Californian Soil』

毎回名曲アルバムを作る3人組の3枚目。今回も静謐なサウンドスケープから立ち上る歌の力が絶品。

Lana Del Rey 『Chemtrails Over The Country Club』

アメリカーナに接近した1枚、今年はさらにもう1枚リリースしており、多作。疲弊したアメリカを癒やすでもなく見送るでもなく、ただ哀しさだけをつぶやく不思議な作風になったのが興味深い。

Art School Girlfriend 『Is It Light Where You Are』

IndieなSSWは今年はあんまり聴く機会がなかったんだけどこれはなかなか。静かに歪んだ音像と沁みる歌がとても良かった。

我是機車少女 i'mdifficult 『25』

最近話題になっている台湾のバンド。センスの良さにクラクラする。まだまだ化けると思いますね。

Jam & Lewis 『Jam & Lewis, Volume One』

今のメインストリームにいまいちしっくり来ていないこともあり、R&Bからせめて1枚だけでもというと今年はこれだけかなあ。でもこういうアルバム、この人達なら2000年代初めにサクッと作れただろうなというのが正直なところ。20年遅い。ただ単にfeature曲を並べるだけではなくアルバム全体に流れがあるのはさすがベテランとは思うが。来年はVol.2、Vol.3とガンガン出てくれればもう少し素直にプッシュしたい気持ち。

Moritz von Oswald Trio 『Dissent』

Vladislav Delayが辞めて代わりに入ったTony Allenが亡くなりMax Loderbauerも辞めてしまい…、とどうなるかと思ったらHeinrich KöbberlingなるジャズドラマーとLaurel Haloを加えた編成での新作。言われるほどJazzっぽいとは思わないが生身の人間感はAfrobeat寄りだった前作を上回る。Moritz von OswaldがTrio名義でやりたいことって結局こういうことなんだなあと大いに納得。

Floating Points, Pharoah Sanders & The London Symphony Orchestra 『Promises』

Pharoah Sandersがブーフー吹いているのでJazzのような気もするし、LSOの分厚いアンサンブルを聴くと現代音楽かなと思うし、というFloating Pointsのプロジェクト。Sam Shepherdって前からこんな感じのことやりたさそうだったもんな。しかし一番驚いたのはPharoah Sandersってまだこんなに吹けるのかよ、という。

Zuwe 『Immersion』

今年はいまさらながらVaporwaveやDreampunkにハマってしまい、玉石混交というか正直9割ぐらいは石なんだけど、果てしないdigの流れで面白いレーベルを発見したりした。Forgot Imprintもそのひとつで、おそらくAmbient中心のレーベルなのかなと思うけどDROIDROYのようにいかにもなVaporwaveもリリースしていたり。品を感じる作品が多いという印象がありここが共通点と言えば共通点か。この界隈はとにかくリリースの物量が暴力的で途方に暮れている。

Point Hsu 『混搭實驗 Mashup Experiment Vol.1』

今年のマイ台湾ブームのひとつ。こちらは電子音楽方面から。今の台湾、本当にワクワクする。超お勧め。

Degs 『Mixtape Sprayout Vol. 2』

実はDrum & Bass熱も下がっておらず、ただ昔ほど有象無象のレーベルまで掘らなくなっただけで相変わらずシングル単位で爆買いし続けてる感じ。Degsは近年出色のSinger/MCで、沁みる良い声が圧倒的。

Riya & Collette Warren 『Two Sides Of Everything』

女性ボーカリストのDuo作。登場から四半世紀が経過し現在のDrum & Bassは完全に成熟しているのでこんなアルバムも出来てしまう。"Women Make Music"ファンドの支援を受けて制作された本作、クラブミュージックにおけるジェンダーであったり、COVID-19影響下のシーンの状況について考えてしまうが、2021年の作品として記憶したい逸品。

V.A. 『NQ State Of Mind, Vol. 2』

Lenzman主催The North Quarterのレーベルコンピ第2弾。それぞれ曲も良いけどRedeyesによるDJ Mixがまた非常に良く、Foxは往年のMC Conradを思わせる格好良さ。COVID-19以前のように気軽にパーティできる状況ではないけれど、やっぱりDrum & Bassって良いですよね。

Eydís Evensen 『Bylur』

ジャンルとしてはネオクラシカルということになるのかな。アイスランドのピアニストによる作品で作曲は全て本人、曲によって弦楽四重奏金管との共演。予備情報無しに聴いても厳しい冬の情景が浮かぶ快作で、これがデビュー作とはなかなか。

Hania Rani & Dobrawa Czocher 『Inner Symphonies』

Hania Raniって、本来はネオクラシカル系のピアニストであろうが、普段GondwanaからリリースしていることもありUKジャズ文脈に置いていても違和感がない人だった。今年はスタジオライブの『Live from Studio S2』や過去の映画提供作をまとめた『Music for Film and Theatre』をリリースしていたが、これに加えて今回は友人のチェロ奏者Dobrawa Czocherとの共演(2回目)をDeutsche Grammophonから。作曲家としての特異性がさらに際立ちつつある。

演奏も素晴らしい。

Porcupine Tree 『Harridan』

PT活動再開を祝してアルバム単位ではなく1曲だけ紹介。しかし来年6月のアルバム予告が11月、渇望感煽りすぎでは。曲は攻め一辺倒でSteve Wilson & Gavin Harrisonという感じ、悪くはないけどColin Edwin不参加は地味に痛いな…。今年初めのSteven Wilsonソロ作『Future Bites』を聴いて100%プログレ感がなくなっていたので、逆にこれはPT復活あるぞとほくそ笑んでいたのだが本当になるとは感激。が、2022年のツアー日程を見て「あ、これCrimson今年で活動終了だわ」と気がつき涙したのでした。

King Crimson 『Music Is Our Friend: Live in Washington and Albany, 2021』

Robert Frippは一貫して「解散」という言葉を使わず「完結」としていたが、2021年12月8日の渋谷Bunkamuraを以てKing Crimsonは52年に及ぶ歴史に終止符を打ったとみるべきでしょう。本作はUSAツアー最終日の全曲+2014年にこのラインアップで活動を開始した最初の場所であるThe Eggでの演奏から一部を加えたオフィシャルブート。
今年のCrimsonは本当に凄かった。第8期はアレンジの大枠は年単位では固定しており2021年版はこれまでよりドラムアレンジをすっきりと整理させつつRobert FrippとMel Colinsが荒ぶるトーンが基本という印象だったが、本作での演奏と日本での演奏、あるいはDGMからダウンロード出来る本作以前の日程での演奏、毎回全て違っており、曲によってはアレンジの変更さえある。参加者は強く印象に残ったと思うが最終日Gavin Harrisonによる21CSMのドラムソロも他の日とは変えてきており、これが本当に今日活動停止するバンドかよと驚いたのだった。