2021年 今年の音楽 / 新譜:Jazz

Makaya McCraven 『Deciphering The Message』

このアルバムの特異性については既に色んな場所で触れられているが、とにかく必聴。Blue Noteという古典はHip HopあるいはRare Grooveのどちらかの観点で再解釈するという固定観念を完全に破壊している。モワッと曖昧に立ち上がる音像はこれまで聴いたことのない特殊な空間で、これまた一体何が起きているのか全然解らないのだが、とにかくスゴイという。ここから「次の10年」モードに入ったことを告げる1枚。


Nik Bärtsch 『Entendre』

Nik Bärtschのピアノソロ2作目。RoninはまたBassが変わったようだしMobileからはKasper Rastが抜けたようだし(でもRoninは継続)、とBand側が落ち着かない中でのリリース。なのだが、しかしまあ変わらない人ですなあ。一言で言うと強靱。いつものModulシリーズが続くがしかし最終曲は驚きの1曲。Modulシリーズはメカニカルな律動を強制する楽曲群だが、この「Déjà-vu, Vienna」は曲中で幾度となく運動を「停止」する。これまでのNik Bärtschを知る人からすると驚天動地の曲なのだが、これは果たしてここだけで発生した特異点なのか、それとも次への予告なのか。

Girls in Airports x Aarhus Jazz Orchestra 『Leap』

Girls in Airportsの新作は大編成で。特徴的な音色はそのままながら緻密なアンサンブルで圧倒する。

Sachal Vasandani 『Midnight Shelter』

Edition Recordsも久しぶりにSingerのアルバムを出してきましたね。これはRomain CollinのピアノとのDuo。落ち着いたトーンで話題になっていた一作。

Slowly Rolling Camera 『Where The Streets Lead』

そのEdition Recordsの総帥Dave Stapletonのバンド新作。昔はThe Cinematic Orchestraのパクリみたいなバンドだったんですよ、とかもう誰も信じてくれないだろうな。久しぶりにボーカルものもやっていてfeatureされているのは上記のSachal Vasandani。レーベルの成長とバンドの成長が一体化している。

挾間美帆 『Imaginary Visions』

Edition Recordsはここ最近徐々にヨーロッパ全域に触手を伸ばし始めており挾間美帆にオファーして提供されたのがDanish Radio Big Bandとの本作。去年のMarius Neset作品(ドイツのACTからのリリース)は演奏DRBBで指揮は挾間美帆、今回は作曲から手掛けたもの。DRBBがこの楽曲群を完全に演奏し切れているかというとアレな感じもちょっとあるのだが、これがEdition Recordsからリリースされることで、伝統的なビッグバンドたちに対してどこまで広がりをもたらすのかが興味深いところ。

Portico Quartet 『Monument』

組曲だったEP『Terrain』も良かったけどフルアルバムはもっと良かった。この少しだけひんやりした空気感だけで「ああUKジャズだなあ」と強く思う。

Mansur Brown 『Heiwa』

フルサイズでは2作目となる今回は自己のレーベルから。白昼夢のようなギターの音色はますます磨きがかかり、フレージングもコード感もますます抽象的。完全に独自の路線を走っているのだが、決して変な音楽ではないという。

Michael League 『So Many Me』

Snarky Puppyのリーダー初のソロはなんとボーカルアルバム、Drumを一切廃して代わりにPercussionでリズムと空間を埋め尽くした傑作。もはやJazzではないのかもしれないがしかしこれは近年のGroudUP Music全般に言えることだとも思う。もともと越境者の傾向が強かったMichael Leagueにとっては当然の通過点なのだろうなと。今年発表されたMirrorsやBecca Stevensの諸作も同じ空気を共有しており、非アメリカから次の音楽を照射する試みなのかなと思う。