2021年 今年の音楽 / Reissue

Wes Montgomery 『The NDR Hamburg Studio Recordings』

生涯1度だけとなったWesの欧州ツアー、各地の録音がポロポロリリースされるがこれはドイツでの演奏。当時ヨーロッパで暮らしていたJohnny Griffin以外は現地のミュージシャンによるもので、所々詰めが甘いと感じるが、Wesのレギュラートリオもこんなもんだったよな、とも思う。Wesのライブ盤はバンドの出来よりもいかにWesが気分良く弾いているかで出来不出来が決まるようなところがあり、この盤は前月のParisよりはやや落ちるかなという程度。尺の決まっている演奏でちょっと居心地悪かったんでしょうね。プロとしては不思議なタイプの演奏家だったとつくづく思う。

Ndr Hamburg.. -CD+Blry-

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Bill Evans 『Behind The Dikes: The 1969 Netherlands Recordings』

Resonanceからのリイシューと誤認させてやろうという強い意志を感じるジャケットデザイン。一応ゼブ・フェルドマンが関わっているレーベルではあるようだが。とはいえ丁寧なリイシューではあり、Eddie Gomez嫌いの俺もニッコリ。昨年の『Live At Ronnie Scott's』は酷かったからなあ…。今回目玉は最後の2曲でClaus Ogermanアレンジの『With Symphony Orchestra』(1965年)収録曲をオーケストラと共演。大変珍しい。

Aretha Franklin & King Curtis 『Live At Fillmore West: Don't Fight The Feeling』

名盤『Live At Fillmore West』(1971年)の元となる1971年3月5日〜7日の3日間にわたる全公演を前半King Curtisの演奏から全て収録したマニア垂涎のComplete盤。2006年に『Live At Fillmore West』Deluxe盤には採用されなかった日のテイクをまとめたディスクがついていたが、やっぱりComplete盤はいいですねえ。King Curtisのセットは毎日ちょっとづつ違っていたり、Arethaは基本固定しているけどRay Charlesが参加したのは最終日だけだとか、なかなか興味深い。正規版は最終日のテイクを数多く採用しているものの、この日のマスターテープに直接オーバーダブされていたために本来のリストアが出来なかったとかエンジニア泣かせの話もあります。

Chuck Brown & The Soul Searchers 『Funk Express』

初CD化。アナログも全然手に入らない盤だったので張り切って購入。しかし、Wayne Hendersonプロデュース1980年の本作、1曲1曲はそう悪くはないのだが仕上げがいちいち軽く、あまり成功していない。以後のChuck Brownはレコーディングアーティストとしてのキャリアを事実上停止してしまったわけで、ファンクバンドがレコードで稼げる最後の時代を棒に振ってしまったようにも思うし、一方でDCのローカルヒーローとして純化していったことを喜ぶべきなような気もする。超ダサいジャケットも含めて忘れたくない1枚(あんまり聞き返さないけど)。

Wood, Brass & Steel 『Welcome To The Party: The Complete Recordings 1973-1980』

目を疑う驚異のリイシュー。Bernard Alexanderを名乗っていた頃のSkip McDonaldとDoug Wimbishを擁するファンクバンドが1976年と1980年にリリースしたアルバム2枚+デビュー以前1973年にまるまるキャンセルになった幻のファーストを納めたコンプリート版。資料的価値も含めて最高のリイシューでしょう。いずれも良作、1976年アルバム収録のRonnie Laws作「Alway There」のカバーはホーンはやや微妙ながらもリズムセクションのキレは本家を上回る。ちなみに本家のプロデューサーは前述のWayne Hendersonである。あっちは出世作だったのになあ(しつこい)。

Welcome To The Party

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Incognito 『Always There 1981-2021: 40 Years & Still Groovin'』

しりとりみたいなつなぎだが、そんなAlways There(Side Effect版を参照しているけど)をカバーしていたIncognitoの8枚組Box。内容はバラバラとしたBestセレクションやらRemix集、廃盤になっているLive盤や未発表曲集など。クレジットが乱雑で整理しづらいのが欠点だけどまあまあ網羅性の高いBoxではないでしょうか。
ボリューム感たっぷりなので買ったはいいが放置状態、12月半ばになってからようやく聴いた。ところで、Incognito版のAlways ThereというとDavid MoralesによるHouse Mixで耳に馴染んでいたが、これ超久しぶりに聴いたオリジナルも相当格好いいですね。UKのAcid Jazz勢って全般的に演奏力がいまいちなのでリアルタイムでは結構馬鹿にしていたんだけど、改めて聴くとこのDrumだけめっちゃくちゃ上手いな…ていうか妙に聞き覚えのある小口径チャイナトラッシュのフィルイン連発…。これ、無名時代のGavin Harrisonですね。数日前まで生で観まくりました。セッションミュージシャン時代のGavin Harrisonを無個性、とネットで書かれているのを見た記憶があるけどいやいやとんでもない、かなりクセのある記名性の高いDrummerだと思います(でもここでのプレイ、この人にとってのアイドルであるSteve Gaddにちょっと似てるところがあって微笑ましい)。

David Bowie 『Brilliant Adventure (1992-2001)』

アルバムで言うと1993年の『Black Tie White Noise』から1999年の『hours...』を超えて未発表アルバム『Toys』までをカバーした恒例のBoxシリーズ第5弾。11枚組。Bowie史上最もどこで区切りを入れるのか難しい時代だと思うが、個人的には『Earthling』で一旦区切る方がしっくり来る。もしくは『hours...』で区切れば"Reeves Gabrelsとの蜜月時代"と括れそうな気もするんだけど2000年のBBC Radio Thatre(6-7枚目)とToys(8枚目)はそこから外れちゃうし…。Tin Machineをなかったことにしているせいでバランスを崩した気がする。
今回はレア曲集『Re:Call 5』も折角2枚組までボリュームを取っておきながら、あれもないこれもないのオンパレード。せめて「Telling Lies」は全バージョン入れて欲しかった。このBoxシリーズ、造りとしては誠実さと中途半端さが常につきまとっておりまた今回もかあという感じ。次が最終になりそうな気もするが10年分の中断期間含めちゃうんですかね。

Seefeel 『Rupt & Flex (94-96)』

『Succour』(1995年)から『(Ch-vox)』(1996年)までのごく短期間、凄まじい創造性を放射した時代のSeefeelの4枚組。ロックバンドの面影はとうになく、残像さえも残らないホワイトアウトした音響空間が脳内を満たしてくれる。Single集『St / Fr / Sp』も今では入手困難な音源ばかりでしかも格好いい。ただ、Download版にはない「Sp19」と「Ga19」はそれぞれ「Spangle」と「Gatha」の現行体制でのライブ録音を編集した音源なんだけど…なんか随分普通になっちゃいましたね、というのが率直な感想。想い出は氷点下に閉じ込めておくべきだったのか?