2024年 今年の音楽 / Reissue
King Crimson 『Red』
50周年盤。Steven Wilsonの新たなミックスはこれまでの50周年ミックスと同じく細部をブラッシュアップし前回のリミックスで尖っていたところをうまく丸めている印象。長く聴くならやはりこちらでしょうね。Boxに収録のライブはいずれもDGM Liveで既発、音質も変化無し。
そして今回もDavid Singletonによる"Elemental Mix"が収録されているけど…。これそろそろ誰かが止めさせた方がいいと思うんだよなあ。流通元のDGMジャパンが褒めちぎるのは仕方がないと思うが(https://ameblo.jp/king-crimson-dgm-japan/entry-12870823143.html)、普通に聴いて「新鮮な発見が!」とは全くならないし、「あり得たかもしれない可能性が!」というにはセンスがなさ過ぎる。結局は別テイク使ってオリジナルに似せたものを再構成しただけの異物でしかなく。
Elemental Mixのきっかけは「別テイクの聴かせ方を工夫した」などという話は眉唾だと思っていて、おそらくRed40周年のミックスでSteven Wilsonが別テイクの音を採用しておりこれがまた非常に良かったからではないかと自分は考えている(例えば"Fallen Angel"のコルネットソロ。しかし今回の50周年盤では何故か再び不採用)。が、これはSteven Wilsonのセンスだからこそ許される話で、凡人が真似してもダメというか…。David Singleton(とAlex R. Mundy)の努力には頭が下がるんだけど、ミックスに関してはSteven Wilsonあるいは『Meltdown: Live in Mexico』での故Bill Rieflin & Don Gunnとのセンスの差があまりにも激しいので、どうしてもやりたかったら外部に委託するべきではないかと思ったり。
King Crimson 『Sheltering Skies』
こちらはReissue音源というよりは既発音源の再パッケージ。未発表に終わったライブ盤『Europe』(多分1975年の『USA』との対比)に向けた1982年8月27日フレジュス録音。前日のキャプ・ダグド録音から"Sheltering Sky"をボーナス扱いで収録した結果このタイトルの様子。Adrian Belew主催のBEAT立ち上げ祝いみたいなノリのようだが、本当かなあ。実際に予定していたコンフィグレーションはまた違っていそうだし、当時のライブ音源に慣れてしまった今では実際のライブとの曲順の違いが気になってしまう("Waiting Man"で始まらないとしっくりこない)。ただし、80年代当時エンジニアを務めていたBrad Davisがプロデューサーとしてクレジットされているので『Europe』は実際準備は出来ていたのだろう。興味深いことにキャプ・ダグド録音はRonan Chris Murphyのミックス、つまり90年代後半〜00年代前半にはキャプ・ダグド録音を軸にした別のライブ盤企画があったのではないかと推測している。
ちなみにジャケットの絵画は『Three Of A Perfect Pair』と同じPeter Willisの"Behold The Man"(同じモチーフによる同名異作)。これは数年前のRobert Frippの日記で書斎に飾られていたことが確認出来る。Peter Willisは現在ロシア正教会の助祭だそうだ。
ビートジェネレーションの先行者であったポール・ボウルズの小説から引用されたオリジナルのタイトル"Sheltering Sky"(この小説はThe Policeの"Tea in Sahara"のインスピレーションでもある)、そして今回複数形に変形されたタイトル、ジャケットに選ばれた"Behold The Man"…。Robert Frippにとっては全て何かの意味があるのだろうが、本人から説明されることは永遠にないのだろうな、と思う。
The Police 『Synchronicity』
あまりBoxものを出さない(それほどマテリアルがない)The Policeの最終作6枚組。予想以上に印象の異なるデモ版や別ミックスも良いが、やはりDisc5-6に収録された1983年9月のライブ、フルステージがまた格別に良い。
Porcupine Tree 『Fear Of The Blank Planet』
名実ともにPorcupine Treeがモダンプログレのトップランナーであることを示した超名盤の5枚組。Steven Wilsonによるデモ版はやたら完成度が高く逆に面白い(そもそも架空のバンドの振りをしたソロユニットとして始まったのも納得)。ライブは2006年9月、アルバムレコーディングに入る前の全曲演奏(なのでアルバムから外れた"Cheating The Polygraph"が演奏されており"Way Out Of Here"はない)なのだが、細部の違いがなかなか興味深い。相変わらず重厚なブックレットは読み応えたっぷり。
Bill Evans 『Bill Evans In Norway』
Jazz探偵ゼブ・フェルドマンによる今年の発掘品。またしてもResonanceっぽいジャケットだがもうこれは「Bill Evansの発掘盤」という視認性の観点で肯定することにする。1970年ジャズフェス出演時の録音、ステレオ録音の音質は素晴らしく良い。ドラムの定位が気になると言えば気になるが、これはこれで味が合って良し。
でもゼブ・フェルドマンには申し訳ないんだけどそろそろSecond Trioの音源はもういいというか、Eddie GomezもMarty Morrellもあまり好みではないというかむしろ嫌いな方でして…。
Art Tatum 『Jewels In The Treasure Box』
ResonanceからはArt Tatumの1953年録音。超絶技巧のピアニストという程度の認識しかなく、いくつかあるアルバムは音質がいまひとつでピンと来なかったのだが、いやいやこれは。リラックスした環境で鳴らされる粒の揃ったきれいなピアノが楽しめる。これはいいですねえ。
Roy Hargrove's Crisol 『Grand-Terre』
レコード会社の説明文には「デビュー・アルバム『Habana』でグラミー賞最優秀ラテン・ジャズ・パフォーマンス賞を受賞したばかりの1998年初頭にレコーディングが行われていた未発表アルバム」とあり、え?Roy Hargroveのデビューは80年代でしょ、と思ったのだが、どうやらこれはRoy Hargrove's Crisolとしてのデビューと言いたいらしく。でもCrisolはこの未発表アルバムが出るまではOne-offのバンドだと思われてたしなあ。なんかこういう誤認させるようなコピーはあまり好きではない。
とはいえそんなこととは関係なく演奏は素晴らしいの一言。『Habana』以上に熱いラテンジャズ、実はメンバーは半分以上異なるので同じCrisolを名乗るのはちょっと厳しい気もしますが、まあ良いでしょう。Roy Hargroveが持っていた様々な可能性のひとつとして是非聴いておきたい名盤。