King Crimson 『Starless』 3

King Crimsonの『Starless』ボックスセットの紹介第3弾。

Starless

Starless

時間があるうちにどんどん更新してしまおうと思う。
今回はDisc19とDisc20。

Disc 19

1973-11-23 Concertgebouw, Amsterdam, Netherlands

  • 『The Nightwatch』の元となったアムステルダムのライブは、このボックスセットでは複数バージョンを収めている。こちらは1973年当時にGeorge ChkiantzがBBCでの放送用に作成した"Preparatory Mix"である。
  • George Chkiantzは60年代末にキャリアをスタートしたエンジニアで、この時期並行してツェッペリンの『Houses of The Holy』をEddie Kramerらと一緒に手がけている。
  • 奇しくも先日『Houses of The Holy』のリマスター版がリリースされたが、こんなアホなボックスセットを聴きこんでいるおかげで全く聴けていない。
  • YesにおけるEddie Offordがそうだったように当時の優秀なエンジニアの条件だったのかもしれないが、かなり大胆にテープにハサミを入れるエンジニアという印象である。ただしテープ管理は雑だったらしく、『Starless And Bible Black』制作に際して使用したこのアムステルダムのライブの全体やチューリッヒの"The Mincer"などオリジナルのマスターテープが失われている件はほとんどこの人の責任だろうと思う。
  • またもや脱線するが、Eddie Offordと言えばこれまた先日Yesの『Relayer』もスティーヴ・ウィルソンの新Mix版がリリースされた。ツェッペリン同様色々追いつかなくて苦しい。
  • 既発曲中心にこの時点での未発表曲も1曲("Lament")加えており長尺の曲をカットして短くまとめられている。
  • 1997年の『The Nightwatch』(デヴィッド・シングルトン、ロバート・フリップ)、本作のDisc 3-4(スティーヴ・ウィルソン)と聞き比べるとそれぞれのミックスの個性がわかるので楽しい。
  • 今となっては平凡なミックスかもしれないが『Starless And Bible Black』や『Red』でも聴けるような、各楽器のバランスを意識したミックスが特徴である。エンジニアの異なる『Larks' Tongues In Aspic』における団子状態のミックスバランスと比較するとよく判ると思う。

Disc 20

Starless And Bible Black, 2011 Stereo Mix

  • 2011年に発売された40周年記念版と同じ。
  • 一連の40周年記念シリーズでマルチトラックマスターからの再構成の妙技を見せていたスティーヴ・ウィルソンだが、本作ではソースがライブ音源であってもアップデートできることをプレゼンしてみせた。
  • ここ数年は音源再生案件で超人気だが、仕事が相当早いという噂なので一度作業過程を見てみたい。
  • 1972年秋から始動した第3期クリムゾンだが、1972年のステージで表現されていたカオスと『Larks' Tongues In Aspic』には大きな落差がある。当時のクリムゾンにとって「ライブでの勢いをいかにパッケージするか?」が課題となっていたことは想像に難くなく、半分以上をライブ録音が占める本作はこのボックスセットで確認できる制作過程も含めてバンドの苦闘を知ることができる記録である。
  • これが半年後の『Red』になるといきなりレッドゾーンに達してバンドが崩壊しているわけで、アルバムだけを追いかけていくとちょっとした不条理ギャグに近いオチだったと思う。

関連

  • アムステルダムの音源はBBCのアーカイブにも存在している。多くのブート音源の元になったBBC原盤がこれ。

King Crimson - Pop Spectacular Featuring King Crimson In Concert (Vinyl, LP) at Discogs

  • 『Starless And Bible Black』の2011年リリース版。あの時はまさか27枚組などという化け物ボックスが出るとは夢にも思わなかったのであった。